破裂の危険性について
未破裂脳動脈瘤の破裂率は全体をみると年間約1%程度と考えられています。
但し脳動脈瘤はそれぞれ大きさ、発生している部位、形などの特徴や患者さんの背景によって破裂する危険性は大きく異なります。日本および欧米の研究機関から、その危険性、関係する因子を明らかにするための研究が進められてきました。それらを総合すると、脳動脈瘤の破裂に関与するのは下記のような因子です
- 脳動脈瘤の大きさ
- 発生する部位
- 脳動脈瘤の形
- 症状のあるもの
- 高血圧
- 年齢
- 性別
- 人種など
日本人は特には欧米人に比して約3倍破裂を来しやすいことが明らかとなっています。
上記以外にも明らかにできなかった要素として、喫煙、高脂血症の有無、脳動脈瘤の数が複数あること、くも膜下出血を起こした時に発見された別の脳動脈瘤、家族に脳動脈瘤の人がいるか、日常の運動量、歯の病気の有無、脳動脈瘤内の血栓化、石灰化などが関与すると考えられています。
破裂の危険性に関わる因子
この表は破裂の危険性に関わる因子としてこれまで報告されているものをまとめたものです。 括弧内の項目は大規模な前向き研究ではあきらかにできていないものです。
大きさ | 7mm以上(5mm以上) |
---|---|
場所 | 内頚動脈−後交通動脈、前交通動脈((脳底動脈) |
形 | 不整形のもの(ネックに対してドームの大きさが大きいもの、発生血管に対して動脈瘤の大きさが大きいもの) |
性別、年齢 | 女性、70歳以上 |
人種 | 日本人、フィンランド人 |
症状 | (症状のあるもの) |
病気、生活習慣 | 高血圧 (喫煙、多発性嚢胞腎症、虫歯や歯周病、高脂血症、運動量など) |
くも膜下出血歴、脳動脈瘤家族歴 | (くも膜下出血を来した瘤に合併したもの) (家族(特に兄弟、子息、両親)に脳動脈瘤を持つ人がいる) |
( )内の項目は大規模研究では関与を証明できていない
部位と破裂の危険性の関係
UCAS Japanという日本で行われた大規模症例研究では、場所によって脳動脈瘤の破裂危険性は異なり、中大脳動脈にある動脈瘤に比して、前交通動脈や後交通動脈という部分にできた動脈瘤は2倍近く破裂しやすいことがあきらかとなりました。
中大脳動脈 | 前交通動脈 | 後交通動脈 | |
---|---|---|---|
ハザード比: | 1 | 2.02 | 1.90 |
年間破裂率: | 0.67% | 1.31% | 1.73% |
UCAS Japanより
大きさと破裂の危険性の関係
また同研究では、大きさによっても脳動脈瘤の破裂の危険性が大きく異なることがわかりました。例えば大きさが3~4mmの脳動脈瘤に対して10~24mmの脳動脈瘤は9倍破裂しやすくなります。
瘤のサイズ | 3~4mm |
5~6mm |
7~9mm |
10~24mm |
≥25mm |
---|---|---|---|---|---|
ハザード比 | 1 | ×1.13 | ×3.35 | ×9.09 | ×76.26 |
年間破裂率 | 0.36% | 0.50% | 1.69% | 4.37% | 33.40% |
UCAS Japanより
形状と破裂の危険性の関係
動脈瘤の形も破裂の危険性に関わる重要な因子であり、ブレブといわれる不整形の突出がある動脈瘤は無い動脈瘤と比較して1.6倍破裂しやすいことがわかりました。
形状 | ブレブ(不整形)なし |
ブレブあり |
---|---|---|
ハザード比: | 1 | 1.64 |
年間破裂率: | 0.73% | 2.33% |
UCAS Japanより
動脈瘤の大きさ・部位別の年間破裂率 (%)
脳動脈瘤の位置 | 瘤のサイズ | ||||
---|---|---|---|---|---|
3-4 mm | 5-6 mm | 7-9 mm | 10-24 mm | 25mm以上 | |
中大脳動脈 | 0.23 | 0.31 | 1.56 | 4.11 | 16.87 |
前交通動脈 | 0.90 | 0.75 | 1.97 | 5.24 | 39.77 |
内頚動脈 | 0.14 | 0 | 1.19 | 1.07 | 10.61 |
内頚動脈-後交通動脈分岐部 | 0.41 | 1.00 | 3.19 | 6.12 | 126.97 |
脳底動脈先端部 脳底動脈-上小脳動脈分岐部 |
0.23 | 0.46 | 0.97 | 6.94 | 117.82 |
椎骨動脈-後下小脳動脈分岐部 椎骨脳底動脈合流部 |
0 | 0 | 0 | 3.49 | 0 |
その他部位 | 0.78 | 1.37 | 0 | 2.81 | 0 |
全体 | 0.36 | 0.50 | 1.69 | 4.37 | 33.40 |
UCAS Japanより
こちらは脳動脈瘤の大きさ・発生部位と破裂の危険性の関係をまとめた表になります。
この表からも、同じ脳動脈瘤であっても、部位や大きさの違いで、破裂の危険性がゼロに近いものや破裂する危険性が高いものまで幅広く存在することがわかります。
UCAS動脈瘤破裂危険性計算式
この表はUCAS Japanのデータから各危険因子の重要度をスコア化したものです。
年齢や性別などの6つの項目から、3年間での破裂の危険性を推測することができます。
例えば、70歳以上の女性で高血圧があり、7mm未満の前交通動脈もしくは内頚動脈-後交通動脈分岐部の動脈瘤でブレブを有する場合はこちらの表で合計7点となります。
ページ内下方にある「3年間での破裂危険性」の表と照らし合わせると、スコアが7点の場合、3年間での破裂の危険性は5.7%と推定されます。
下の「リスク計算式」では各項目の該当事項をそれぞれクリックして頂くことで、スコアを計算できるようになっています。
ぜひ自分の動脈瘤の特徴を把握して、実際に入力してみましょう。
因子 | 点数 | |
---|---|---|
年齢 | 70歳未満 | 0 |
70歳以上 | 1 | |
性別 | 男性 | 0 |
女性 | 1 | |
高血圧 | 無し | 0 |
有り | 1 | |
大きさ (mm) | 3mm以上 7mm未満 | 0 |
7mm以上、10mm未満 | 2 | |
10mm以上、20mm未満 | 5 | |
20mm以上 | 8 | |
部位 | 後交通動脈分岐部以外の内頚動脈 | 0 |
前大脳動脈、椎骨動脈 | 1 | |
中大脳動脈、脳底動脈 | 2 | |
前交通動脈、内頚動脈−後交通動脈 | 3 | |
ブレブ、Daughter sac | 無し | 0 |
有り | 1 |
リスク計算式
3年間での破裂危険性
スコア合計 | 3年間破裂危険性 (%) |
95% 信頼区間 (起こりうる範囲) |
危険度 (リスク総合) |
---|---|---|---|
0 | 0.2 | 0.2-0.3 | I(<1%) |
1 | 0.4 | 0.2-0.7 | |
2 | 0.6 | 0.2-1.5 | |
3 | 0.9 | 0.4-2.4 | |
4 | 1.4 | 0.5-3.8 | II(1 to 3%) |
5 | 2.3 | 0.8-6.3 | |
6 | 3.7 | 1.3-10 | III(3 to 9%) |
7 | 5.7 | 2.1-16 | |
8 | 7.6 | 2.7-21 | |
9以上 | 17 | 6.4-40 | IV(>9%) |
*注意
この計算式で算出された破裂の危険性はあくまでも目安であり、確実に予測するものではありません。
最終的には、主治医と破裂や治療の危険性についてじっくりお話する必要があります。
引用元:Tominari Sら:Ann Neurol.77: 1050, 2015より