治療の方法

慎重に経過観察を行う方法、破裂を予防するために開頭術(クリッピング術)や脳血管内治療(コイル塞栓術)を行う方法があります。それぞれの方法を具体的に見てみましょう。

経過観察とは

年に1、2回、またはもう少し間隔をあけてCTやMRI検査による経過観察を行います。
サイズの増大や形状の変化、新しい場所に脳動脈瘤が発生していないかなどを観察します。
経過観察中に変化を来すようであれば、治療の検討が必要となります。

経過観察で変化を来した例

60代男性 小型の内頚動脈-後交通動脈瘤

こちらは内頚動脈と後交通動脈の分岐部に小型の未破裂脳動脈瘤が見つかったケースです。
小型であり破裂の危険性が低いことが予想されたので、治療は行わずに経過観察をすることにしました。
しかし、3ヶ月後の検査で右の写真の矢印で示すように、動脈瘤の壁に「ブレブ」という膨らみが新たに認められました。
短期間で動脈瘤の形が変化したことから、将来破裂する危険性が高いと判断され、破裂を予防するために手術治療を行いました。

手術所見


左:極めて薄い破裂しやすそうな瘤であった
右:クリップで完全に閉塞している(術後の検査画像)

こちらは実際の手術の写真です。
丸で囲まれているものが脳動脈瘤です。実際の血管は矢印のようなピンク色をしていますが、この脳動脈瘤は真っ赤な色をしています。これは脳動脈瘤の壁が非常に薄くなり、血管の中を流れる血液の色が透けて見えるためであり、破裂の危険性が高いことが推測されます。
このケースではチタン製のクリップで挟んで潰す、「クリッピング術」を行いました。
右の写真は手術後の検査画像です。脳動脈瘤がクリップで潰されており、動脈瘤は完全に閉塞しています。
実際には経過観察中に治療が必要となる例は少ないと思われますが、この症例のように動脈瘤の形が変化するケースもあるため、経過観察は慎重に行う必要があります。

手術治療

将来破裂する危険性が高いと判断された場合やすでに脳動脈瘤が神経を圧迫して症状がある場合には手術治療が推奨されます。
手術治療には開頭術で脳動脈瘤を直接潰す「クリッピング術」とカテーテルという管を使って、血管の中から脳動脈瘤をコイルで詰めて閉塞させる「脳血管内治療」の2つがあります。
最近の研究ではクリッピング術と脳血管内治療の成績は同等であるとされていますが、脳動脈瘤の種類によってクリッピング術が有利なもの、コイル塞栓術が有利なもの、どちらでも可能なものとさまざまであるため、担当医とよく相談して治療法を慎重に検討する必要があります。

クリッピング術

クリッピング術は頭蓋骨をあける開頭術を行って、直接脳動脈瘤を露出させ、チタンやステンレス製の小さな洗濯鋏のようなクリップで脳動脈瘤の首の部分を閉塞し脳動脈瘤への血流をせきとめる方法です.
まず全身麻酔を行い、頭蓋骨に窓を作って脳を露出します(下図①)。この際、皮膚を切開する場所は髪の毛の中に隠れるようにデザインし、美容上の問題がないように留意します。
そして、顕微鏡で観察しながら脳を慎重にわけて動脈瘤を確認します。下図②の矢印の先が動脈瘤です。
動脈瘤の形に合わせて、正常な血管を潰さないようにクリップをかけます。下図③のように複数のクリップを使うこともあります。
クリッピング術の長所としては、脳動脈瘤をほとんど完全に潰す事ができるため、再発が少なく、破裂による出血を限りなくゼロに近づけることがあげられます。
一方、短所としては、開頭術を行うことから、手術による患者さんへの侵襲が強いこと、術後の美容上の問題などがあげられます。

①頭蓋骨を露出し窓をあけるところ ②開頭して動脈瘤を露出したところ ③動脈瘤に2つクリップをかけたところ

①引用元:一般社団法人日本脳神経外科学会 http://square.umin.ac.jp/neuroinf/cure/004.html
②③引用元:一般社団法人日本脳神経外科学会 http://square.umin.ac.jp/neuroinf/medical/101.html

脳血管内治療

|脳血管内治療とは、皮膚を切ったり頭蓋骨を削らずに血管の中からカテーテルという細い管を使って治療を行う方法です。全身の血管はすべて繋がっているので、足の付け根や肘の内側の血管など、体の表面近くを通る太い血管からカテーテルを挿入し、脳の血管まで進めることが出来ます。
脳動脈瘤の治療ではカテーテルを脳動脈瘤の根元まで挿入して、プラチナなどでできたコイルをつめて閉塞させます。
昔は脳動脈瘤の治療はクリッピング術を行うことがほとんどでしたが、近年のカテーテルなどの道具の改良に伴い、脳血管内治療は急速に広まっており、クリッピング術と同様に脳動脈瘤の治療として普及しています。
この他ステントという金網みたいなもので、血管を裏打ちしてコイルを入れる方法、また最近は目の細かい網となっているステントを挿入してステントだけで動脈瘤を閉鎖するという方法が限られた症例に使われています。


内頚動脈にできた動脈瘤にコイル塞栓術を行っている画像

実際の脳血管内治療時の画像です。
血管の中からカテーテルを動脈瘤まで誘導し、左の写真から順にコイルを詰めている様子示しています。
最終的には脳動脈瘤が描出されず、完全に閉塞されていのが確認できます。

治療の危険性

どのような治療方針にもそれぞれ危険性があり、選択する際には主治医からの説明を受け、十分に理解しておく必要があります。
経過観察では先ほどの症例のように脳動脈瘤のサイズや形が変化していくことがあり、治療を行う前に破裂してしまう危険性があります。
また、クリッピング術や脳血管内治療でも身体に障害を来すような合併症を起こしたり、最悪の場合、死に至る危険性もあります。

合併症:

四肢の麻痺(手や足がうまく動かせない)、歩行障害(杖を必要とする状態、支えが必要、車いすが必要、ベットから起きれないなど)、言語障害(しゃべりにく、言葉がでない)、意識障害などがあります。その他にも、術創の感染や出血、脳脊髄液の漏出、けいれん発作などの合併症も起こることがあり、合併症に対する治療が必要になる危険性も存在します。

またこれら以外にも術前後には全く予期せぬ合併症を来すこともあります。

手がうまく使えない

歩行障害
杖を使って歩く

車いす

言語障害

意識障害

けいれん発作

どれくらい治療の危険性があるのか?

治療の危険性は、脳動脈瘤の特徴、患者さんの健康状態で異なります。
また治療を受ける施設、術者によっても危険性が異なることがあります。
治療による合併症を来す危険性がどれくらいあるのかは、主治医とよく話して十分に把握する必要があります。

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治療について

クリッピング術

コイル塞栓術