治療法はどう決めるか?
治療法は主に破裂の危険性や症状の有無を考慮して決定しますが、その他にも年齢や健康状態、さらには患者さん自身や家族の価値観、ライフスタイルなどを考慮して総合的に判断することが大切です。
治療法の選択は最終的には患者さん自身の判断となりますが、ひとりで抱え込まず、主治医や家族、親しい友人などと良く相談したり、主治医の説明に納得がいかない場合は主治医以外の専門家の意見を聞くセカンドオピニオンも参考にして決めるのが良いでしょう。
具体例1
高血圧のある65歳男性のケースで、脳ドックで前交通動脈に脳動脈瘤が発見されました。大きさは9mmでブレブを伴っていることから、年間破裂率は約2%、年齢から生涯の破裂率は約25%と推測されます。
治療による重篤な合併症が起こる可能性は4-5%程度であることから、破裂の危険性より治療の危険性の方が低いと判断し、破裂を予防するための治療をお勧めしました。
この症例ではクリッピング術、脳血管内治療のどちらでも可能であり、最終的にはクリッピング術を行いました。
治療後の合併症はなく、手術前と変わらない社会生活を送られています。
具体例2
この例は生来健康な53歳女性のケースです。脳ドックで内頚動脈に脳動脈瘤が見つかりました。このケースでは年間破裂率は0.1%と極めて低く、年齢を考慮すると、生涯の破裂率は約2%と推測されます。
治療による重篤な合併症は5-10%程度と見込まれ、仕事を優先したいという患者さん本人の希望も考慮して、まずは経過観察を選択しました。
外来で定期的な検査を行っていますが、幸い動脈瘤の大きさや形は発見時と変わらずに経過しています。
具体例3
この例は74歳の健康な女性で、中大脳動脈に5mmの脳動脈瘤が見つかりました。
脳動脈瘤の特徴から年間破裂率は0.23%で、年齢を考慮すると生涯の破裂率は約4%と推測されます。
治療の合併症は2-3%ですが、当面の経過観察による破裂の危険性は低いと推測されたため、まずは経過観察をおすすめしました。
治療判断困難な例
紹介した具体例では比較的スムーズに治療方針を決定することができましたが、実際には治療方針の選択に難渋することも少なくありません。
具体的には
- 大型の脳動脈瘤で破裂する危険性も高いが、治療に伴う重篤な合併症の危険性も20%を超えてしまうような症例
- 小型の脳動脈瘤で当面の破裂の危険性は低いと予測されるものの、若年の方で生涯における破裂率は比較的高いと予測される症例
- 本来であれば治療の適応があるものの、脳動脈瘤以外にも予後を左右するような病気を患っているような症例
などの症例が挙げられます。
このような症例では脳動脈瘤の破裂や治療の危険性のみでは判断が困難であり、患者さん自身や家族の価値観・ライフスタイル、また施設や専門家によっても意見が異なります。
セカンドオピニオンとは
セカンドオピニオンとは、患者さんが納得のいく治療法を選択できるように、現在診療を受けている医療機関の主治医とは別の医療機関の医師に第2の意見を求めることです。
これまでの説明にもありましたが、未破裂脳動脈瘤の治療では専門家によって治療法が異なることも少なくありません。
治療方針に関しては、十分に医師と相談して、治療の目的と危険性についてよく理解して、ご自身の生き方に照らし合わせて決定することが極めて重要です。もし主治医の説明だけでは治療法を決めかねる場合や主治医の治療法の選択に疑問が残るような場合にはセカンドオピニオンを求めるのも選択肢の一つとして良いでしょう。
おわりに:その他注意すべきこと、励行すべきこと
実は未破裂脳動脈瘤を有する方の死因はくも膜下出血以外の疾患によることが多いとされています。このことから、治療するにしても、経過観察をするにしても全身の健康に気を使い、普段より適度な運動を行うことや定期的に健康診断を受けることが推奨されます。
- 健康に留意(高血圧の治療、禁煙、歯科治療など)
- 適度な運動(週3回以上の30分くらいのWalkingなど)
- 定期的に健康診断や人間ドックをうける
また治療を受けた場合は治療後も長期の経過観察が必要な点を忘れないで下さい。
納得が重要
未破裂脳動脈瘤は特殊な例を除けば多くの場合は、緊急に治療が必要となることはありません。まずは未破裂脳動脈瘤という病気を理解し、主治医や家族とじっくりと相談して、納得した上で治療法を決定することが大切です。すぐには治療を受けないと決めた場合でも、後で治療を受けることはできるので、最初に決めた選択に将来、拘束されることはないので安心して下さい。